第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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教室での一体感を感じて授業参加する環境を保障する 従来、教室内での着席位置は、少しでも情報を受け取りやすくなるようにと教室の最前列であるのが一般的である。障がいを持つ学生からは「いつも最前列に座っていることが、周囲からは優等生のように見られることに抵抗もあった。本当は自分の友人の近くに一緒に座りたいとは思うけれど、わがままは言えないと思っていた」という声が聞かれたという。支援を受けている学生にしてみれば、「助けてもらっている」という負担感から、さまざまな面で主体的になりにくい状況にある。「そんな思いが、彼らをお客さん状態にしてしまう一因になっていると思います。せっかく授業に出るのならもっと主体的に参加できる環境を用意するべきではないでしょうか」。 これまで、教員の話していることをなるべく正確に伝えることが教育の場における情報保障だとされてきた。「しかし、教室の中で一体感を感じながら授業を受けられるような環境を用意することこそ、本当の意味での情報保障だと私は考えています」。 開発に協力したゼミ生の名前をとって「Sakiシステム」と名付けられたこのシステムは、授業で実際に当該学生に使用してもらいながら改良を重ね、2012年の秋学期には、教授が一切関わらなくてもノートテイカーが独自に利用できる段階にまで至り、一応の完成形が出来上がっている。タブレットを活用した軽量小型化への挑戦 さらに、2013年度からは3年間の科研費を獲得し、より小型軽量化したモデルの開発に取り組んでいる。従来のモデルではシステムを動かす本体としてパソコンを利用していたが、これを授業のたびに持ち運ぶのは重くてかさばるため、パソコンの代わりにタブレット端末を利用しようというものだ。これを実現するために、従来Windowsのソフトとして運用していたシステムを、Android用のアプリとして開発。これにより、持ち運ぶシステム用の一式セットは書類袋に入るほどのコンパクトサイズになる。 この小型版はまだ試用版ができた段階であり、完成に向けて今後教室での実験を重ねていくことになる。「現時点での完成度は35~40%というところでしょうか。ツールとしてはもう少し完成に近いのですが、実際に使ってみて初めて洗い出される問題もたくさんあると思うので、まだまだここからがスタートですね」。 今後の改善項目としては、手書き入力とパソコン入力の併用も検討中だ。パソコン入力は速度で勝るものの、手書きならではのニュアンスが好まれる傾向もあるため、これをミックスした形も視野に入れているという。また、記録したノートのデータをクラウドに保存する構想もある。現在は授業の終了後に書いたノートを被支援学生に渡しているが、クラウドからダウンロードできるようになれば、ひとりのノートテイカーが複数の学生を支援することが可能になるからだ。 「今回いただく科研費は、研究をして報告書を提出して終わりというものではありません。モノとして完成させて、必要としている人たちが使えるように届けるところまで、ぜひ到達したいと考えています」。デジタルペンで書いた内容が被支援学生のタブレット端末に映し出される。両側をノートテイカーに挟まれた従来のノートテイクと異なり、授業への参加感が向上。教場での試験運用風景。右端に被支援者が位置し、タブレットで情報保障を受ける。左2名は支援者。31今後開発を進める、より小型軽量化を目指したタブレット型モデル

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