第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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早稲田大学では障がい学生支援室を設け、身体に障がいのある学生に対する支援を行っている。その一例として、聴覚障がいのある学生のために支援者が教員の話を書き取るノートテイクという支援がある。畠山教授は、このサービスをより被支援者の立場になったものに充実させるため、障がい学生支援室と共同でITツールを活用したシステムを開発中だ。聴覚障がい学生への支援を充実させるITツールを開発支援を受ける立場でも主体的に授業に参加させたい ノートテイクとは、2名のノートテイカー(支援者)が聴覚障がい学生の両隣に座り、教員の話や学生の発言などの音声情報を交替で書き取っていく支援だ。支援される学生は、両側に座ったノートテイカーの手元をのぞき込むことで教員の話を追い、授業に参加することになる。 次々と書き込まれる文字を追い続けなくてはならない上、角度によってはノートテイカーの腕の影に隠れてノートが見づらいときもある。これらの制約があるため、支援を受ける学生はノートをのぞき込むのに必死で、教員の顔や表情を見る余裕もなく、板書やスライドなどの映像資料を使用しても目を向けられないことも多いというのが現状だ。 自身の授業でこのような姿を目にした畠山教授は、大きな違和感を抱いていたという。「書き取るノートをただひたすら見ているだけならば、極端に言えば離れたところでテレビ講義を見ているのと変わりません。もっと彼らに、その場の一体感を感じてもらいながら授業に参加させられないものかと、強く感じていました」。障がいを持つゼミ生と協力し支援システムの開発に挑む 漠然とそんな思いを抱えていたところ、たまたま2010年に1人の聴覚障がいのある学生が畠山教授のゼミに入ってきた。教授と2人で話をするときは、口元や表情を見たりして意思の疎通を図ることができるが、グループワークなど学生同士で議論をする際には、発言のタイミングも難しく、なかなか参加できない。いわば「お客さん状態」になってしまっている状況であった。「ゼミでは参加者が好きなことを自由に語り合ってこそお互いに高められるものなのに、それができないことをとても歯がゆく感じました」。そこで、教室の中での座る位置をはじめ、どんな方法がベストなのか、その学生とゼミ生全員で相談しながらさまざまな点について試行錯誤を重ねていった。そのひとつとして浮かび上がってきたのが、今回の支援ツールの導入だ。 さまざまな障がいを持った人の支援を行う装置やシステムの開発を専門としてきた畠山教授は、既存のツールで応用可能なものはないか、アンテナを張り巡らせていた。そんな中で目に止まったのが、プレゼンテーション中にホワイトボードなどに書いた内容をそのままデータとして保存できるシステムだ。 メーカーと協力しつつ、聴覚障がいの支援に特化したシステムの開発を開始。既存のシステムはプレゼン中などにゆっくり書くという利用を想定したものであったため、授業のノートテイクのように大量に手書きされるデータを処理するにはさまざまな問題が生じた。改良を重ね、翌2011年の4月に原形が出来上がり、初めて授業で試験的に利用してみるところまでこぎつけた。デジタルペンで書いた情報を被支援学生のタブレットに送信 こうして出来上がったシステムは、ノートテイカーがデジタルペンで書いた内容を、システムがセットアップされたパソコン経由で被支援学生のタブレット端末に映し出すというものだ。デジタルペンの先端に内蔵されたCCDカメラがペン先の動いた軌跡を読み取り、それをBluetooth無線技術でパソコンに送信する。パソコンでイメージ化されたデータはWiFiで学生の手元にあるタブレット端末に送られ、画面に表示される。 データ通信はすべて無線で行われるため、支援を受ける学生はノートテイカーの隣に座る必要がなくなる。また、自分の見やすい位置や角度にタブレットを持つことができるので、ノートテイカーの腕に隠れて見えなくなることもなくなるだけでなく、教員の顔や板書なども見やすくなる。 このシステムを利用する最大のポイントは、支援を受ける被支援学生が支援者と物理的に切り離されるところにあると、畠山教授は強調する。「ノートテイカーに挟まれて座っている状況は、まるで教室内で保護者に付き添われているような空気がありました。座る位置に制限がなくなったことで、親しい友人の近くに座ることもできるし、他の学生と同じように教室にいるという一体感を感じながら授業を受けられるようになるのです」。30畠山卓朗人間科学学術院教授

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