第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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語学における発音指導には個別対応が有効だが、大人数の授業で一人ひとりの指導に時間を割くことはむずかしい。折井准教授は、オンデマンド化した講義部分を自習させて授業内における実習時間を確保するのに加え、学生に自分の発音を録音して提出させ、教員がコメントを返信することで、一人ひとりに合った発音指導を行うことを目指している。オンデマンド講義とCommonsを用いた音声録音で個別の英語発音指導を充実させる大人数での授業では発音指導の時間が足りない 折井准教授が担当している必修授業「英語音声学」は、音声学・音韻論の基本概念を学ぶとともに、子音や母音を始め音変化の諸現象(連結や同化等)など、現代英語の音声を習得することを目標としている。第二言語習得理論・発音指導法を学ぶためにイギリスに留学した経験を持つ同准教授にとっては、特に思い入れの強い授業でもある。「発音を上達させたいと思っている学生は多く、ほとんどが真面目に取り組んでおり、やりがいも感じています」。 しかし、理論の説明に時間が取られ、実技の指導に十分な時間を回せないことがずっと課題となっていた。1クラスの人数が平均50名、多いときは60名を越す大人数となると、個別の発音指導は不可能に近い。学生たちの授業評価アンケートでも、もっと実践的な練習をしたい、自分の発音に対してのアドバイスが欲しいという声が多く寄せられていた。オンデマンド視聴と事前課題提出で教場での実技指導を充実させた反転授業に そんな課題を解決する糸口となったのが、オンデマンド授業の導入だった。2008年度の秋学期に、自身の妊娠・出産によって生じる緊急事態時の休講に備えて、オンデマンド配信用に講義を収録することになったのだ。以前はオンデマンド授業には否定的だったが、実際に自分で体験してみると、単なる休講対策だけではなく、これを活用することで教場の授業をもっと充実させられるのではという可能性を感じたという。 そこで、その後も理論説明の講義の一部をオンデマンドコンテンツ化し、予習として事前に視聴させることにした。オンデマンドで視聴するだけでは理解しきれない部分もあるため、教場でもかいつまんで補足説明を行う。それでも授業内で一から説明するよりははるかに効率的で、説明の時間が短くなる分、今まで不十分だった実技指導に大きく時間を割けるようになった。 しかし、授業時間までに見てこなかったり、視聴履歴は残っているものの漫然と見ているだけだったりなど、オンデマンド講義を活用していない学生も見受けられていた。そこで、音変化の実例を多く含むリスニング教材を科研費の助成を受けて開発し、発音指導に活用することにした。学生は春学期中に授業の一貫として取り組んだリスニング教材を秋学期に改めて聴き、英語の音変化についての講義コンテンツを参考にして、どこに音変化があったかを自分で分析してレポートを書かせる課題を課すことにした。「2012年度に少し始めてみて、2013年度には成績にも反映させることにしたところ、ほとんどの学生はしっかり取り組んで提出してくるようになりました」。Commonsで録音させた発音をCourse N@viへ提出させることで、学生全員の発音指導が可能に この授業では学期末に発音の実技テストを行っており、これに合格しないと単位を取得できない。授業内でも個別指導は心がけているものの、「最後の発音試験で初めてまとまった量の発音を聞くというケースも多く、そこに至る前に一人ひとりの学生の発音をじっくり聞いて直してあげられる機会があれば、もっと改善できたのにと残念に感じていました」。 そんな状況を改善できないかとCourse N@vi導入当初から親身になって相談に乗ってくれいる遠隔教育センターの担当職員に相談してみたところ、学生の音声を録音するという方法を提案された。これは、2012年度に早稲田大学に導入されたWaseda-net Commonsという動画・音声コンテンツの収録公開プラットフォームを利用した手法で、授業をPC教室で行い、学生はヘッドセットを装着し、Silverstreamというソフトを使って自分が発音した音声を録音するというものだ。その後、Commonsへ音声をアップロードし、書き出すことができるURLをCourse N@viのレポート機能を使って提出するという流れになる。 教員はレポートのページから提出された音声を1つずつ聴くことができる。それに対してコメントをつけていくことで、学生を一人ひとり呼び出さなくても、個別に発音を指導することが可能になった。 発音の指導では、改善すべきポイントは一人ひとり異なる。たとえば、強弱のリズム一つをとってみても、学生によって修正すべきポイントが異なっていることが多い。個人の癖に応じてケースバイケースのアドバイスをすることで、より効率的な指導ができるよ16折井麻美子教育・総合科学学術院准教授

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