第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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教育工学が専門の三尾教授は自身の担当する授業でもICTを積極的に活用している。有効と思われるデジタルツールはまず使ってみる、そして利用者アンケートによってその効果を検証。また、授業担当教員間の情報共有によるFDの取り組みにも注力している。新たなデジタルツールの導入や教員同士の授業動画の共有で、授業の質の向上に取り組む「専用端末」と「Webクリッカー」で学生の授業への主体的参加を促す デジタルツールや新しいメディアを、授業に積極的に取り入れている三尾教授。専用のクリッカー端末もそのひとつだ。授業中、教員の質問やアンケートに学生がボタンを押して答えると、その結果を瞬時にスクリーンに映し出せる。「大人数の授業でも学生の全体的な意向を把握でき、双方向の授業が可能になります」。現在はまだ実現できてはいないが、端末と学籍番号とを紐づけることができれば、誰がどの意見を選択したかを知ることもできる。 大学でもクリッカー端末の貸し出しを行っているが、三尾教授は質問スライドの事前の動作確認用に自身で端末とレシーバーを購入したという。「クリッカーを用いて授業中に学生の意見を聞くことは、“クラスのみんなの意見がわかっていい”“自分の意見が少数派か多数派かを知るのは重要だと思う”という学生の感想もあり効果が期待できます。しかし、自作した配布専用のケースで改善を試みていますが、それでも授業の際に学生に配布や回収をする手間がかかることは課題です。」。 そこで、2013年度は新たにWebベースのクリッカーの利用も試している。授業中、指定されたアドレスに学生がスマートフォンなどでアクセスすると、回答画面が表示される。専用端末を配る必要がなく、番号選択のほか自由記述が可能なことも大きな特徴だ。このWebベースのクリッカー機能は大学側が開発中のプロトタイプシステムである。  「実験的に複数回使ってみましたが、学生たちの自由記述回答をスクリーン表示すると授業への参加意識がより高まるようです。」 ただ、自由記述をそのままスクリーンに表示したところ、不真面目な回答が最初に上がってしまい、その後同種の回答が次々表示されるという事態も起こった。「このときは小休止時に行った実験で、授業内容に関する質問ではなかったのですが、回答の表示方法は検討の余地があると考えさせられました」。 ただ、「不適切回答の表示」は、学生たちにとっては無意味ではなかったと三尾教授。「新しいツールを使う際には、こうした予想外のトラブルが起こり得る。学生たちにそれを知ってもらえて、どう対処すべきか考えるきっかけになったことは、情報リテラシー教育としては十分意味があったと言えるのではないでしょうか」。 Webベースのクリッカーを使うには、スマートフォンやタブレット端末を保有している必要があり、また何らかの理由でログインできない学生が一部いたという問題点もあった。 「スマホを持っていても定額制でない学生の通信料の負担感や保有していない学生への配慮が必要です。ネット接続できる端末を何台か用意して、保有していない学生に貸し出すといったことも検討しなければいけないでしょう。また、授業中にスマホを操作させることの弊害の検証も必要だと思います。専用端末とどちらがよいのかなども、今後も両方の利用と学生アンケートを継続して経験値を蓄え判断していきたいですね」デジタルツール導入の本来の目的は「授業内容の改善」 ICTの教育活用というと、新たなツールやメディアを導入すること自体に目が行きがちだが、もちろん本来の目的はツールを使うことで授業を改善していくことだと、三尾教授は指摘する。 「『メディアの新規性』という言葉があるように、新しいメディアに接すると学生の満足度は一時的に必ず上がります。ただ、そのまま使い続けていると、徐々に満足度は下がっていってしまう。だったら、どのタイミングでどのように使えばいいのかをよく考える必要があります」 学生が新しいツールをどう感じたかを知り、授業に生かす方法を検討するには、毎回授業の最後に実施しているアンケートが非常に有用だという。 「学期末だけのアンケートでは、学生の記憶も薄れていますし、第一、その学期が終わってしまうので授業の改善の効果を学生自身が実感できない。前述のWebクリッカーの利用も、その日にアンケートを取っているので学生の反応を実感でき、ツールの導入が適切だったか、運用方法に問題がなかったかなどをすぐ検討できました」 また、デジタルツールはあくまで「道具」であり、当然ながら授業では道具より「内容」が問われると三尾教授は語る。 「以前なら、パソコンを授業で使うだけで『パソコンだ、PowerPointだ』と学生の興味を引いて、学生の満足度も上がりました。でも、今はパソコンもPowerPointも当たり前で、新規性はありません。だから、その先の工夫が重要なんです」 三尾教授は、PowerPointでスライドを作成した場合には、学生に配布する資料はあえて文字だけにして、穴埋めする項目を用意している。「スライドの内容をそのまま学生に渡すと、安心して別のことを38三尾忠男教育学教育・総合科学学術院教授

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