第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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授業の質を向上するには、教員の手間や時間が増大するのは不可避と考えがちだ。しかし、今までのやり方を否定するのではなく、技術の進歩をうまく活用し効率を上げることで、教育効果を向上させつつ、教員の負担も軽減する。そんなWin-Winの方向性を目指しているのが大鹿准教授の事例である。10分だけオンデマンド化し「反転授業」大人数での対話型授業を目指す授業前のビデオ予習により、教場での演習時間を充実させる「反転授業」 今回この試みを導入したのは、「原価計算論」という授業だ。製造業における製造原価算出のための手法、および算出後の利用方法の学習を目的とするこの授業では、計算技術の習得が必須となる。必然的にある程度の反復練習が必要だが、理論部分の説明や考えさせるための要素も重要であるため、演習問題の時間を十分に確保することは困難だ。学生からは「もっと問題演習を増やして欲しい」という要望が寄せられていた。また、実務を知らない学生を相手に話をするには、できるだけ具体的な話題も紹介したいと思うものの、そのための時間も不足しがちであった。 そこで、予習用のビデオコンテンツを作成し、これを事前にオンデマンドで視聴させてから授業に臨ませ、教場での演習時間を増やす「反転授業(Flipped Classroom)」(*)を試すこととした。従来も、基本的には教科書を読む程度の予習をしてくることを求めてはいたが、実際に予習してくる学生はあまり多くはないようだった。 「何か予習の動機付けになる仕掛けをと思い、ビデオを作ってみることにしました」。(*)「反転授業(Flipped Classroom)」従来の「教場では教員が説明,家庭(宿題)では演習」という関係を反転させた形態の授業のこと10分の予習ビデオで授業時間は20分節約できる 2013年度秋学期の授業(週2回)に備え、ビデオはその前の夏季休業中に前半の15回分を、残りは授業開始後に学生の様子やアンケートを確認しながら、3回分ぐらいずつ何回かに分けて作成した。 初めてということもあり、1本のビデオを作るのには収録時間のほぼ2倍の時間がかかった。そこで、作る教員側と閲覧する学生側、双方に無理のないように、1回分のビデオの長さを基本は10分、最大でも15分以内で作るよう心がけた。 あらかじめビデオを作ったり、それを事前に閲覧したりという、教員と学生双方に授業時間外の活動時間が発生する一方で、10分間のビデオを作っておくと、教室の授業時間は20分ぐらい節約できるという結果になった。教室ではスライドを準備する作業や、それを学生が書き取っている時間などが必要となるが、ビデオではそうした時間を省けるためだ。 現在は、節約できた20分のうち、10分は演習問題に費やし、残りの10分は授業を早く切り上げている。授業中の説明も、ビデオを見ていれば分かる部分は省略できるため、その分の時間を具体例などの話に費やすことができる。「10分のビデオを見ると当日の授業も10分短くなるということで、合計の時間としては同じ計算になりますが、効率は大幅に上がっていると感じています。」 予習用ビデオについては、個人の成績には反映していないものの、閲覧したかどうかの履歴はチェックしている。そのデータを小テストや中間テストの結果と照合してみると、予習ビデオをきちんと見ている学生ほど、その点数が上がるという相関関係が見られた。「このビデオを作ったことによって、予習をしてくる学生が増えたことだけでなく、毎回どのぐらいの学生が予習をしてきたかを数字で把握できるようになったことも収穫です」。 対話型・双方向型の授業へ近づけるためスマホ版クリッカーで演習問題の正答率を明示 さらに、授業の質を上げるためにこの授業で取り入れたもうひとつの手法が、メディアネットワークセンターが開発したスマホ版のクリッカーの導入だ。一般的には、クリッカーとは教場で学生に専用端末を配布し、質問への回答を入力させると瞬時に集計が行えるというものだ。しかし、端末の配布・回収に手間がかかることに加え、大学全体で200台しか所有していないため、300人以上いるこの授業では台数が足りない。 そこで今回は、学生自身のスマートフォンを回答用の端末として利用できるクリッカーを利用した。学生は各自のスマートフォンのブラウザで指定のURLにアクセスし、画面上の操作で回答を送信する。教員はPCから集計結果をリアルタイムに確認し、それをスライドなどによってその場で学生に共有することができる。ブラウザから利用できるため、インターネットにつながってさえいれば、スマートフォンに限らず、学生個人のノートPCやタブレットPCなど、端末の種類を問わずに利用が可能だ。 この授業では、授業中に扱う演習問題の解答をこのスマホ版ク10大鹿智基商学学術院准教授

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